たのくろ、というのは田んぼのクロ、あぜ、畔という意味ですが、たのくろ農園というのはその畔にいると気持ちいいね、という思いを込めて名付けた名前です。
今は畔草のきれいな季節ですが、今こそもう一度原点に戻って、たのくろを大切にしたい。
農業には色々な流派があって、呼び名も様々な農業が無数にありますが、その違いはもう意味があまりない。農薬を使う、使わない。化学的、有機的、オーガニック、無農薬、慣行、共生、見方によって限られた範囲での背比べでしかない。例えば、タネに農薬がついているか、土や水に化学的要素が入っているか、光化学スモッグ、堆肥は有機、でもその牛の餌は?耕作者の生活は有機的?コンビニは?依存しているエネルギー、電気は石油?原子力?ソーラー?完璧なもの、絶対のものはなく、ものの見方を縮めたり、広げたりすれば、大きな社会の小さな差異に過ぎない。
でもそれでも自分の目線を大切にすれば自ずと自分に合う生活が生まれる。
たのくろを大切にするというのは、ひとまずここでたのくろ栽培、たのくろ農法と名前をつける。たのくろ栽培とは畑の中で、生産性の高い実際の圃場、畑というのは土の部分。その縁がたのくろ。たのくろ栽培というのは、その圃場の部分と、畔の部分の循環を大切にする農法です。
畔の草刈りというのは農作業の中でも地味な部分。生産性、効率性、機械化を優先すれば、圃場というのは、畑というのは、四角く平らで広いというのが一番。その結果畔は少なくなる。なるべく草刈りの手間は省略したい。生産性を高めた畑の作物は市場で換金されて消費される。その畑の豊かさを担保する肥料は鉱物由来、化学的な肥料がメインになる。その循環は拡大して、経済的にグローバルになってシステムに接続する。このシステムの中で農業することは現代農業の前提だけれど、それはなかなか合う人もいれば、合わない人もいる。というか、農業というのはそういうシステムだけれど、そのシステムに合わない人が農業の姿を借りて、自分の生活を築くチャンスはある。
たのくろ農法というのはそういう人向けのささやかな農法、戦法です。
畔の草を刈り、その草を畑に敷く。その草で堆肥を作る。その作業技術はいたってシンプル。毎朝1時間草を刈り、1時間草を運ぶ。これをせっせと繰り返す。昆虫や小動物のように繰り返す。有機とか無機とか関係ない。生産性が低いのでお金で買う農薬や肥料、資材は極力少なくする。草を刈る、運ぶ。この作業だけなので道具もシンプル。草刈機と軽トラック。鎌とリヤカーのようなものがあればできる。その人の体力に合わせてやればいい。
畔の草はほとんど恵、宝。昔は牛の餌、堆肥に利用されていたけれど、今はそれがガソリン、化学肥料に変わっているので、ノーマーク。圃場整備されて畔が少ないとはいえ、畔の草は延々伸びている。草刈りをすれば感謝もされる。棚田、段々畑は実はたのくろ農法向き。
タネをまく、その周りに草を敷く。畝を立てる。その隙間に草を敷く。草を積んでおく。堆肥になる。ささやかな毎日の作業が、循環し、生活の基盤になる。現金での交換経済を控え抑えて、無料の畔の草を利用する。結果収穫したものをささやかに交換し、人間関係を作る。かなり理想的。
でも、これがなかなか難しい。
まず、今の現実的な生活が、経済中心なので、お金になる仕事、お金で買うもの、タイムパフォーマンス。時給感覚。これにかなり縛られる。のんきに草刈り、草運びをするより、肥料をまいて、どんどんタネを蒔きたくなる。収穫、出荷していないと不安になる。経済的にも歯車のように役割を担わないと、生活ができない。
しかしここで粘る。身近な畑とその畔の草の循環。作業の循環。おそらくきっと長い目でみればこれが一番効率的。一番経済的。なはず。誰にも縛られずに、怒られもせず、嫌がられもせずに、のんきにできる。そこまで難しい作業では無い。畔の草を刈り、それを運ぶ。
喜びがある。この喜びになかなか気づかないかもしれないけれど、現実、まだ自分も喜びと不安が混ざりつつ実践するけれど、畔の草を刈る。運ぶ。ここには作業の喜びがある。草という植物、自然と関わる喜びがある。あぜ道ですれ違う昆虫、動物、人とのささやかな言葉がある。経済効率に縛られた体が、この喜びに気づけば、たのくろ農法はほぼ成功する。そして気づいた喜びを歌にして、絵にして、言葉にして声を出す。ここがいちばんの関門。当然生活の矛盾や困難がついてくる。だけどよろこびがある。だから、たのくろ農法というのはみんなに勧められる農法では無い。完璧を目指す農法でもない。今の社会の中で、なかなか居場所や活躍のない人向けの、そしてあぜ、たのくろのある田園風景の好きな人向けの農法です。
困った人、明日どうしていいかわからない人、草刈りと草運びで生きて行く方法がある。小さな虫のような生活。自分はこれからの人生でそれを証明したい。
一番草の刈り取られた牧草地。利用さていない方の草に注目しよう。
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