2021年6月14日月曜日

マスク


 暑くなってきた。ウイルスを取り込まないように、吐き出さないようにマスクをしているけれど、いい感じに外さないとかえって病気になる。

 マスクをつけると楽、という。人もいる。そうかもしれない。顔の筋肉が休める。


以下、吉本隆明の講演を、https://www.1101.com/yoshimoto_voice/speech/text-a165.html から引用。


 

……ひげは何か触覚の役割から解放されてしまったという説き方をしています。そうしますと、どういうことを意味するかというと、例えばネズミの場合には触角の役割をするひげの一本一本を動かしている筋肉というのが、人間の場合には全般的に顔の表情を動かす筋肉に変わってしまったということなのです。本を正せば、要するにネズミみたいにひげの一本一本が動いて、それが触覚の役割をする哺乳類的な役割を持ったけれど、直立するようになってからだんだんそういう役割から解放された。つまり、ひげの一本一本を動かす筋肉なんていうほど立派な筋肉は人間からはなくなってしまったけれども、ネズミのひげを動かしている筋肉に該当するものは大体人間の顔の全般に行き渡っている。だから、人間の表情を動かしているのは、顔全般で動かしているのは、要するにネズミにすればネズミのひげを動かしている筋肉と同じものが、人間の場合には人間の表情を作る動きに作用しているという説明の仕方をしています。

 その説明の仕方は大変おもしろい。つまり、機能と言いますか、働きの面から人間の表情を考えて、一体どういうものが発達したか、退化したかはわかりませんと言っていいかはわかりませんけれども、それが人間の表情をいろいろと変えさせたりしているのかということの説明として、ネズミの鋭敏なひげとそれからひげを動かしている筋肉とを比較することによって、大変よくそういう機能的な意味での説明を付けていると僕は思います。養老孟司さんという人もそういう考え方をしています。


2 脱肛と魚のエラ――三木成夫の考え方

 専門的に言うと解剖学者というのか、脳生理学者というのかわかりませんけれど、養老さんの先輩筋に当たる三木成夫さんという人がいまして、僕はものすごく偉い人だと思っています。もう数年前に亡くなりましたけれども、この人は顔というのをどういうふうに規定しているかというと、人間の体の発達史に即して人間の顔とは何なのかということを言おうとしているわけです。つまり、機能の面からではなくて、動物から人間に発達してきたものとしての人間の顔とは何かということを三木さんは言っているわけです。

 三木さんの言い方をしますと、人間の顔というのは形から考える考え方をすれば、人間の食道まで通っている腸管がちょうど内側から外側へめくれ返ったものだ。肛門で言えば脱こうというのがあるでしょう。つまり、痔の病気に脱こうというのがある。この脱こうと同じで、要するに脱こうの上のほうに付いているのが人間の顔だというのが三木さんという人の考え方です。腸管の延長線が頭のところに来て、それが開いてしまっているというのが人間の顔だと考えれば大変考えやすいし、発達史的に言いますとそのとおりで、そういうふうに考えると人間の顔の位置付けができると、三木成夫さんという人はそういう説き方をしています。この説き方はとてもおもしろいので僕なんかの好きな説き方です。つまりこれを発生史的な説き方といいます。人間が発達してきて、それで人間にまでなったという言い方が、あるいはもっと、人間の定めだったのだ。定めだったんだけど、だんだん陸に上がってきて哺乳類になって、それで人間になったのだという発達した過程というのがあるわけです。その過程から言いますと、つまり過程からいう考え方というのをこの人はよく非常に綿密に、非常にわかりやすく、しかも非常に一貫した考え方をとっていて、結構腸管が上のほうでめくれているというのが人間の顔だと考えれば妥当だし、一番よいと言っています。

 もう一つ解剖学的に言うと、魚にえらというのがあるでしょう、人間の顔というのはえらと同じ、えらが発達したものだと考えると大変考えやすいと三木さんは説明しています。顔ということを、あるいは表情をしている顔全般ということを、筋肉も含めて全般ということを、魚のえらが発達したものだと考えると考えやすいということを言っています。

 今言いましたように、腸管の延長線が人間の顔の表情、顔ですから、顔の表情の内臓感覚というのがここにきているということになるわけです。三木さんの説明の仕方をすると、口にとっての舌というのだけは内臓感覚だけではなくて、いわゆる感覚器官的なと言いますか、内臓ではなくて、外臓、外臓というのはおかしいですけれど、外とつながった、つまり感覚器官と同じような感覚が舌と唇には入っていて、そこが一番顔の中で敏感な箇所であるという説明をしています。ですから、人間の舌というのは要するに喉の奥から出ている手だと考えるとものすごく考えやすいのだ、そういうふうに考えると非常にわかりやすいのだということを説いています。僕が知っている範囲では、人間の顔についての二つの説き方というのは、人間の顔の機能と役割と解剖学的な性質について説かれている説き方というので、大別してその二つがあると思います。その二つで大体において、顔についての考え方は全部尽きていると言ってもいいのではないかなと思います。


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